本稿は,近代家族観にもとづくジェンダー規範が残る日本社会において,仕事と家事・育児をひとりで両立するシングルファザーの困難を検討することで,彼らがいかなる生活空間で,そしてどのような要因から,「居場所」を失い孤立しうるのかを明らかにした。研究協力者を得づらい調査上の課題を補完するため,インタビュー調査で得られた6名のシングルファザーの「語り」に加えて,書籍の言説も分析対象にした。分析を通じて,シングルファザーは,職場で「男性」として働くことと,家庭で「ひとり親」として家事・育児をすることの両立に困難が生じて「居場所」を失いうることが明らかになった。さらに「職場/家庭」が強化・再生産してきたジェンダー規範が,地域,学校・保育施設,役所,消費空間という多様な生活空間にも浸透していることで,シングルファザーは居づらさや疎外感を覚えて孤立することを指摘した。一方で,covid-19による社会の変容は,男性の働き方を変化させ,家事・育児参加を促しつつある。これにより「職場/家庭」の再構築が期待されると同時に,ジェンダー規範の相対化が進行する可能性も示唆された。ただし,在宅勤務の増加で生じる新たな「ホーム」の問題も指摘されており,「職場/家庭」関係の再構築が,すぐさまシングルファザーの空間的孤立を解消するとはいえず,人々のジェンダー規範を変革するためのより詳細な実証研究の蓄積が待たれる。
Ryoya Hayakawa (Thu,) studied this question.