本発表では、人が自らの思考や行動、欲求を調整するための「心の制御」が、あらかじめ備わった能力ではなく、特定の文脈の中で繰り返し経験される実践を通じて徐々に獲得される「文脈的知識」によって支えられているという視点を提起する。これまで実行機能を代表とする「心の制御」は領域一般的な認知能力として捉えられてきたが、近年の研究は、それらの遂行が文脈依存的である可能性を示唆している。本発表では、こうした視点を裏づける3つの異なる実証研究を紹介する。1つ目の研究では、ある行為系列を円滑に遂行する際に、順序や行為系列の目標に関する知識がどのようにその制御を支えているかを示す。2つ目の研究では、異なる認知課題間での制御方略の転移に焦点をあて、特定の文脈で獲得された方略的知識が別の課題でどのように応用されるかを検討した結果を示す。最後に、3つ目の研究では、満足遅延課題において、子どもが集団規範や信頼関係、文化的習慣といった社会文化的知識に基づいて「待つ」行動を調整していることを示す知見を紹介する。これらの知見を総合することで、「心の制御」は単なる個人内の静的能力ではなく、文脈に根ざした知識の構成的プロセスとして発達するという観点が導かれる。さらに、複数の文脈をまたぐ共通性や統計的規則性が抽象化されることで、文脈を超えた汎用的な制御スキルが生まれる可能性についても議論したい。
Yanaoka et al. (Wed,) studied this question.